ルーセットオオコウモリの飼育 情報収集ノート

整理・記録用です。ほぼ海外の資料で種や環境が異なるため、日本の飼育下繁殖の生体にはあてはまらない部分がある可能性があることにご注意ください。アイコンは母親が餌を食べている間一人でお留守番しているこどもです(かわいい)。

食事と栄養(Fruit Bat Husbandry Manual, 1995)

出典

Demspey J.L. and S.D. Crissey (1995), Nutrition. In: Fruit Bat Husbandry Manual, N. Fascione, Ed. AZA Bat Taxon Advisory Group. The Lubee Foundation Inc.

https://www.battag.org/husbandry.html

 

ざっくりまとめ

・果実食コウモリに必要な1日の栄養量ははっきりわかっていない

・果実食コウモリに必要な栄養素に関連しそうなデータ(排泄物や動物園で与えている餌の内容など)と他の動物のデータを組み合わせて推測した値を参考にするしかないのが現状

・必要量が推測されている栄養素はタンパク質、脂肪、ビタミンA/D/E、カルシウム、リン

・餌の量の目安は、体重の50~120%の重量、ただし授乳中は増やす

 

感想

・動物園によって餌が全然違っておもしろい。葉物食べるらしいのは意外。うちのコウモリはカボチャも好き。

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5. 栄養

 栄養にまつわる章の開発は非常に複雑で、多くの課題を抱えていることが示されてきた。コウモリを飼育している施設によって、食事の内容は異なっている。本章の目的は、管理者がコウモリのための食事を計画する際に考慮すべき一般的なガイドラインを提供することである。

 ここでは、栄養摂取量の目標範囲と、それを満たす食事の実際を紹介する。Bat TAG Nutrition Subcommitteeでは栄養に関する研究を継続しており、新しい知見はこの章に定期的に反映される。果実を食べるオオコウモリとココウモリが飼育下で繁栄するためには、栄養ニーズを満たすことが不可欠である。食事ガイドラインの作成は、多くの情報源からの情報を利用する大規模なプロジェクトである。これらの情報源には、現在の摂食生態データ、公表されている栄養所要量データ、動物園で入手可能な食材、コウモリの食の好みなどが含まれる。

 

5ーA.採餌生態

 現在、採餌生態に関するデータは、野生のコウモリの採餌習慣についての記述が大部分であると思われる。様々な栄養素を摂取するための食物の収集と分析を行った研究もある(Morrison, 1978; Morrison, 1980; Thomas, 1984)。また、野生のコウモリの排泄物や胃の内容物を調査したものもある(Stellar, 1986; Thomas, 1984)。これらの方法にはそれぞれ限界があり、どれもフルーツコウモリの一日の必要栄養量を定められていない。したがって、現在までのところ、フルーツコウモリが必要とする栄養量を記述した情報はほとんどない。必要栄養量の推定が行われているのは、オオコウモリ亜目についてのみである(Stellar, 1986; Thomas, 1984)。果実を食べるココウモリの必要栄養量のデータはほとんどない。多くの種が新鮮な緑色飼料を定期的に摂取しているが、それが全体の栄養にどの程度寄与しているかは不明である(Kunz and Ingalls, 1994; Kunz and Diaz, 1994; Marshall, 1985)。さらに、フルーツコウモリは花、花蜜、花粉などといった植物の果実以外の部分を摂取する(Bradley-Law, Lowry, Marshall, 1983)。

 

5-B.必要栄養量

 果実を食べるオオコウモリとココウモリの必要栄養量は不明だが、特定の種のオオコウモリに必要なタンパク質とエネルギーについての研究が行われている (Delrome, pers. comm.., Kunz and Diaz, 1986; Thomas, 19984)。 目標栄養量を確立するために、前述のデータ、新しい研究データ、および現在使用されている飼料から収集したデータを使用する予定である。

 もちろん種による差はあるだろうが、コウモリは他の哺乳類と同様に、組織代謝に必要な性質を持つ栄養を必要とする可能性が高い。必要栄養量を確立するための研究はほとんど行われていないものの、米国国立研究評議会(National Research Council)によって多くの家畜や実験動物の必要栄養量が示されている。この NRC のガイドラインを、現在使用されている飼料の採食生態と栄養素の含有量に関するデータと一緒に使用することによって、飼育下にあるコウモリのための適切な飼料を処方することができる。コウモリに特異的な広範なデータが存在しないことを考慮すると、現時点ではこれは有効と思われる。目標栄養量を満たすための予備データを以下に示す。これらの値は参考値であり、確固とした推奨を行うために必要なすべてのデータがまとめられていないためである。

〔暫定的〕1日の目標栄養量(乾物含量)
 粗蛋白質 (%) 2.0 - 15.0 *
 脂肪(%) 5.0 - 9.0
 ビタミンA(IU/g) 4.0 - 14.0
 ビタミンD2・D3 (IU/g) 0.2 - 2.0
 ビタミンE (mg/kg) 11.0 - 56.0
 カルシウム (%) ** 0.5 - 1.0
 リン (%) ** 0.4 - 0.9
*飼育下のオオコウモリやココウモリの摂食量として報告された数値はこの範囲に入る(Morrison, 1980; Rasweiler, 1997; Reiter, 1993; Stellar, 1986; Thomas, 1984
** 哺乳類におけるカルシウムとリンの推奨比率は 1.1 ~ 2.1 である(Robbins, 1993)

 

5-C.機能している3つの食餌の栄養素含有量
 目標栄養量がまだ明確でないため、我々は、上述の栄養量を満たすであろう食事を提供している。微量元素量についての調査は行われていない。いくつかの機関がこれらの食事はうまく機能しているようだと報告している。これらの食事はあくまでも提案として示すものであり、検証を受けていないことに注意が必要である。食餌を準備しやすくするために、データを少し修正し、特定の食品ではなく食品群として提示している。与えるべき総量は多くの要因に影響を受けるため示していない。大まかな目安としては、平均的な健常な成体コウモリは1日あたり体重の約10~15%(乾物ベース)、または給餌時の体重の50~120%を摂取していると考えられる。授乳中の場合は、1日あたりの摂取量がその1.5倍になることもある。量の制限をせずに与えた場合、肥満に注意する必要がある。

3動物園の食餌の栄養成分含有量と目標栄養量の比較(乾物含量)
           目標栄養量  Zoo A  Zoo B  Zoo C *
 粗蛋白質(%)    2.0 - 15.0   12.3   19.0   4.9
 脂肪(%)        1.0 - 5.0    7.2   3.0   4.4
 ビタミンA (IU/g)    4.0 - 14.0   26.0   14.9   8.1
 ビタミンD2・D3 (IU/g)  0.2 - 2.0    6.2     3.2      0.1 **
 ビタミンE (mg/kg)   11.0 - 56.0   133.1   50.2   29.8
 カルシウム (%)     0.5 - 1.0    0.4     0.8   0.1 ***
 リン(%)         0.4 - 0.9    0.3     0.4   0.1
*この動物園では毎日食事の構成が変わるため、平均値を示す。
** この動物園ではフルスペクトルライトの下で飼育されている。
*** この動物園ではミネラルホイールがケージ内に置かれ自由に摂取できる。

 

5-D.機能している食餌の構成
 我々は、現在飼育下で使用されているいくつかの飼料について、栄養面における多くの懸念を持っている。我々は最終文書でこれらの問題に対処したいと考えている。

食品項目:以下に示す割合は、上記の 3 動物園の飼料から得られたものである。以下の食品からなる食餌の提供により、上記で概説した動物園の食事の栄養レベルを達成することが可能である。施設の状況にあわせて使えるよう、食品群として割合を提示している。これは、各項目(または食品群)の体重に対する割合である。

3動物園の食餌における食品群の寄与率の比較(給餌ベース)
 食物群           Zoo A  Zoo B  Zoo C*
 果物(%)          74.1   16.0   90.4
 野菜 (%)           -      7.0     -
 でんぷん質の多い野菜(%)   -    7.0     -
 葉物、緑黄色野菜 (%)     -    14.0     2.3
 果汁・ネクター(%)      -      -    6.5
 水 (%)            -     41.0     -
 栄養補助食品 (%)      23.3 **   7.5 ***  -
 たんぱく質サプリメント(%)  -     -     0.7
 自家製サプリメント(%)    2.6    7.5     0.1
*この動物園では毎日食事の構成が変わるため、平均値を示す。
** 霊長類用缶詰14.2%とネコ科用缶詰9.1%で構成される。
***高タンパクの猿用ビスケットによる。

食品群:以下の1つ以上を含めることができる。
果物:リンゴ、バナナ、ブドウ、梨、パパイヤ、干しイチジク、レーズン、メロン、キウイなど
野菜類:にんじん、インゲンなど
でんぷん質の多い野菜:さつまいも、とうもろこしなど
葉物、緑黄色野菜:レタス、ほうれん草、ケール、コラードマスタードなど

上記の食事療法では、市販の高栄養価の製品に加え、自家製のサプリメントを使用していることに注意されたい。もし、1つ以上の製品がそれぞれの食事に含まれていない場合は、前のセクションで紹介した栄養素が反映されていないことになる。自家製レシピの多くは、作るのが難しく時には高価なものもある。したがって、最終章では、目標栄養量を達成するために、簡便かつ栄養的に優れた食事を使用するための推奨事項を提供することを意図している。

 

5-E.必要な情報

 果実食のオオコウモリとココウモリの目標栄養量と適切な給餌方法の推奨を最終的に決定するためには、まだ多くの情報を収集しなければならない。 この情報の多くは、我々が提案している事前調査と、それに続く、現在フルーツコウモリを飼育している施設での食事と給餌方法の詳細な調査によって得られるようになるだろう。必要とされる情報には、以下のようなものが含まれるが、この限りではない。

栄養不足/毒性、飼育下での採食行動、与える餌の量(要因として、年齢、種、飼育施設の大きさ、グループ内の数など)、与える餌の形態(例:刻んだものと丸ごとの果物など)、肥満の問題、季節性(例:季節に応じて異なる餌を与えるなど)、給餌スケジュール、給餌場所、新鮮な緑の飼料や植物における他の部分の使用と潜在的な栄養(飼育下のフルーツコウモリにおいて許容される飼料の部分的リストについては、付録Eを参照)、飼育下のフルーツコウモリのための行動エンリッチメント

 

付録E
飼育下のフルーツコウモリにおいて許容される飼料の部分的リスト
アルダー、灰、アスペン、竹、バナナ、ブナ、box elder、crabapple、ハナミズキ、楡、フィカス、フォーサイシア、ブドウ、ハクイチゴ、スイカズラ、ケンタッキーコーヒーの木、葛、マングローブ、楓(赤くないもの)**、桑(赤くないもの)、梨、ポプラ(tulip poplar除く)、スウィートガム、トーチジンジャー

** 赤い楓は一部の施設で与えられているが、摂取に関連したと思われる健康被害が報告されているため、推奨できない。